ダン・ローズ「ティモレオン センチメンタル・ジャーニー」 [*読書ノート(海外)]
かつては名の売れた作曲家だった、初老の同性愛者コウクロフト。
ある事件がきっかけで故国イギリスを離れた彼は、イタリアの田舎町で、
少女の瞳のように愛らしい眼をした雑種犬ティモレオン・ヴィエッタと
仲良く暮らしていた。
そこに自称ボスニア人の青年が転がり込んできて、
老人と愛犬の穏やかな生活は終わりを告げる。
青年に疎まれ、見知らぬ街に捨てられたティモレオンは、
懐かしの家を目指して走り出すが…。
タイトルと表紙のイラストから受けた最初のイメージはサクッと裏切られた。
感動や癒しは皆無です。
犬を愛する人にとっては、特につらい内容となっているため、
筆致に魅了される人と嫌悪感を抱く人、ハッキリ分かれそうだけれど…。
私はこの作品を読み終えた後、やりきれない気持ちになると同時に、
読む価値のある、とても優れた小説だと思いました。
特に第二部。
行間には、不快な淀みやら、もの寂しさやらが沈んでいて、
時には劇薬のようにビリッと残酷。
なのに、不思議な美しさと煌めきがそこにはあって、
なんでだか愛おしい気持ちにすらなってくる…。
風変わりな余韻も後をひく、魅力的な小説。