安部公房「水中都市・デンドロカカリヤ」 [*読書ノート(国内)]
初期短編11編を収録。
社会風刺を匂わす要素も織り交ぜつつ、非日常的で非現実的。
どの話もこの上なく不条理だけど、面白い。
これらが全部、昭和24〜27年の間に執筆されたというのもスゴイ。
今読んでも驚かされるのだから、当時はかなりブッ飛んでたろうなー。
『闖入者』は強烈だった。
〈民主主義〉を笠に着て、〈多数決〉という美名にかくれ、
個人の〈生〉を喰い破り、〈恐怖〉で支配する連中。
主人公の身に降りかかる、あまりにも理不尽な展開続きに
ムカつくやら底知れない不気味さを感じるやらで、
実に良い塩梅でイライラ&カッカさせてくれる(笑)。
ああ〜そういえばこの感じ・・・筒井康隆の短編集『懲戒の部屋』を読んだ時を思い出すぞ。
筒井氏の作風には、安部氏からの影響も含まれていたのかな…と想像。
『水中都市』も好き。
泥臭いのに、ファンタジーを感じる。
ラスト二行の
『しかしおれももう返事を待ってはいなかった。おれはその風景を理解することに熱中しはじめているのだった。
この悲しみは、おれだけにしか分らない……。』(P.250)
…がズンときた。
ダン・ローズ「ティモレオン センチメンタル・ジャーニー」 [*読書ノート(海外)]
かつては名の売れた作曲家だった、初老の同性愛者コウクロフト。
ある事件がきっかけで故国イギリスを離れた彼は、イタリアの田舎町で、
少女の瞳のように愛らしい眼をした雑種犬ティモレオン・ヴィエッタと
仲良く暮らしていた。
そこに自称ボスニア人の青年が転がり込んできて、
老人と愛犬の穏やかな生活は終わりを告げる。
青年に疎まれ、見知らぬ街に捨てられたティモレオンは、
懐かしの家を目指して走り出すが…。
タイトルと表紙のイラストから受けた最初のイメージはサクッと裏切られた。
感動や癒しは皆無です。
犬を愛する人にとっては、特につらい内容となっているため、
筆致に魅了される人と嫌悪感を抱く人、ハッキリ分かれそうだけれど…。
私はこの作品を読み終えた後、やりきれない気持ちになると同時に、
読む価値のある、とても優れた小説だと思いました。
特に第二部。
行間には、不快な淀みやら、もの寂しさやらが沈んでいて、
時には劇薬のようにビリッと残酷。
なのに、不思議な美しさと煌めきがそこにはあって、
なんでだか愛おしい気持ちにすらなってくる…。
風変わりな余韻も後をひく、魅力的な小説。