中野京子「怖い絵 死と乙女篇」 [*読書ノート(国内)]
『怖い絵 泣く女篇』に続いて、これで2冊目。
私が読んだのは文庫本版。
掲載されている絵も、サイズに合わせた縮小に伴い、細部の線や色が潰れてしまっています。
そのため、解説を読みながら絵をみても、わかりづらい点がちらほらあり、仕方ないとはいえ残念。
もし再読する時は、ハードカバー版で読んだ方がいいな。
名画に秘められた人間心理の深層を鋭く読み解く22の物語。
中でも特に印象的だったのは…
●作品1*レーピン『皇女ソフィア』
女性統治者ソフィアは権力争いの末、弟に敗北。
この部屋に閉じ込められ、9年もの幽閉生活を送る。
窓の外にぼんやり見えるのは、彼女の味方だった銃兵隊長の・・・!
弟の腹いせによりわざわざ吊るされたそれを、ずっと見せつけられていたとは・・・ひいい。
●作品4*ベラスケス『フェリペ・プロスペロ王子』
一見、可愛らしい子どもの肖像画と思いきや…。
ともに描かれたディテールとそれらについての解説から、
この絵の正体は、大人たちの一方的な都合の犠牲となってしまった、
王子の哀しい受難の姿であるのだとわかってくる。
●作品8*セガンティーニ『悪しき母たち』
一目みただけで「怖い」と感じる絵。
母の死が契機となり、孤独を強いられたセガンティーニ。
自分を捨てた父より、早くに亡くなった母が恨めしい。
と同時に、母の死に責任を感じ、
命と引き換えに自分を産み育ててくれた母を次第に理想化していった。
この絵は「堕胎」を絵画化した初めての作品といわれているそうで、
母性を讃えるため、母性を持たない女たちを酷(むご)く罰する絵を描くのは、
セガンティーニの屈折した思いゆえ。
●作品11*アンソール『仮面にかこまれた自画像』
群れる仮面がことさらにグロテスクなため、
素顔の画家の整った自画像はいっそう孤高で高貴とあれば、
それは自己陶酔以外の何ものでもない。
…が、この絵に描かれた男、実はアンソール本人ではない。
アンソールもまた仮面をかぶっているのだ、ただし防御の鎧としての仮面を。
「画家の王」と呼ばれた、かの男の仮面を!
●作品18*アミゴーニ『ファリネッリと友人たち』
穏やかな幸福感の漂う絵。成功者たちの憩いの園のよう。
中央に座る主役のファリネッリは、オペラ界に君臨した稀代のスーパースター。
そしてカストラートである。
「神と人と音楽を結びつける聖なるもの」とされるカストラートとは、一体何なのか?
また、それがどういう理由からうまれたものなのか?
そして、華やかなカストラートたちの影につきまとう実情とは?
解説を読んでゾッとした。
意味がわかると、これもまた「怖い絵」だった。
●作品22*シーレ『死と乙女』
画家自らを死神になぞらえたこの絵にまつわるエピソード。
怖いというより、哀しい。
スコット・スミス「シンプル・プラン」 [*読書ノート(海外)]
ある雪の日の夕方、
借金を苦にして自殺した両親の墓参りに向かうため、
ハンク・ミッチェルは兄とその友人とともに町はずれの道を車で走っていた。
途中ひょんなことから、彼らは小型飛行機の残骸とパイロットの死体に出くわす。
そこには、440万ドルの現金が詰まった袋が隠されていた。
何も危険がなく誰にも害が及ばないことを自らに納得させ、
3人はその金を保管し、いずれ自分たちで分けるためのごくシンプルな計画をたてた。
だがその時から、ハンクの悪夢ははじまっていたのだった。
【扶桑社ミステリー『シンプル・プラン』裏表紙の紹介文より抜粋】
ハンクは良くも悪くも真面目だけれど、どうやら要領が悪いタイプ。
妻のサラは一見、賢く頼り甲斐あるようにみえて実は思い込みが激しく独り善がり。
余計な知恵ばかりが回ってわざわざ事を難しくしてるよなあ。
最初のうちはルーやジェイコブの自己中さと頭の悪さにムカついてたけど、
読み終わってみると、サラが最もタチが悪く狂った人間に思えてくる。
そして、ジェイコブにちょっと同情する。
この話、〈たった一枚の100ドル札〉が後々効いてくるね。上手い。