皆川博子「花闇」 [*読書ノート(国内)]
全てを読み終えてから、序章に戻ってもう一度読み返すと結構・・・きます。
『自分は、七分がた、死んでいるようなもの』『そうしないと、辛くて苦しくてかなわないから』と、ちょっと横に退いて何もかもがよそごとのように冷めた目線をもって生きてきた三すじ。
そんな彼の心をも絡めとって離さず、ゆるぎなく美しい、唯一無二の存在であり続けた田之助の光と影、そして壮絶な生涯がここに綴られています。
『金で汚され色で汚され、その汚濁を養いに、こうも清冽(せいれつ)な花が咲く。その仕組が、三すじには不思議であった。』(P.120)
また、三すじにとって、ある一つの感覚を共有できる同志、心から打ち解けて話せるたった一人の相手として〈最後の浮世絵師〉月岡芳年も登場。
「英名二十八衆句」「魁題百撰相」を絡めたエピソードも作中に盛り込まれているので、芳年好きな人は一度読んでみるのもまた一興かもですよ。
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幕末から明治の初めにかけて一世を風靡した歌舞伎役者がいた。
三代目・澤村田之助。
名門に生まれ、美貌と才能に恵まれた女形として絶大な人気を博しながら、不治の病に冒されて三十四歳の若さで逝った。
進行する病魔と闘い、足を失いながらも舞台にたつその気迫。
芸に憑かれた人気役者の短くも数奇な生涯を、同門の大部屋役者(市川三すじ)の目を通して情緒豊かにつづる長編小説。
【集英社文庫『花闇』裏表紙の紹介文より抜粋】
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